HM 5 一番いいテレビって何だろう。一番光ってる画面って何だろう。僕は探していた、最高のテレビを。20代で2回目の転職。また、新しい職場に来た。転職は希望と絶望が表裏一体であることを、肌で感じられる貴重な経験である。私は最近、新しい職場の近くに引っ越しを済ませ、着々と仕事にも慣れてきた。そんなある日のことだった。とある女性と食事に行くことになった。彼女は少し変わったひとだ。レストランでカレーを注文し、辛いと書いてあるのに「これ辛すぎる」と言って涙を流していた。また、水を口に含んだかと思うとゲホゲホとむせだし、水を飲むのが苦手、というようなことを言った。彼女の少し変わったところ、不器用なところに私はとても惹かれていった。彼女と交際することになった。彼女はいつも私の新居に遊びに来てくれる。私はコーヒーを作るのが得意だ。彼女はいつもおいしそうにそれを飲んでくれる。彼女がふと、つぶやく。「この部屋、テレビがないね。」私はそもそもテレビを必要と感じたことがなかった。テレビは情報を得るかエンターテインメントを楽しむためのものであると解釈している。その場合、情報はニュースアプリ、エンタメはYouTubeで間に合うのではないか。そう思っていた。しかし、彼女はその大きな瞳を輝かせながらこう言った。「一緒に家で、大きいテレビで映画を見たいな。」男というのは単純な生き物である。昨日まで必要のないと思っていたテレビを、彼女の一言で購入する気持ちにまでなってしまう。買わない理由がいくつあろうとも、買う理由は1つで十分なのだ。そして、テレビが家に届いた。思っていたよりも大きい。音も割とクリアで画質も申し分ない。これは相当盛り上がる映画鑑賞になりそうである。私は非常にワクワクしていた。試しにPCとテレビをhdmiケーブルを使ってつなぎ、映像を流してみた。きれいに映った。私は嬉しくなって彼女とどの映画を見ようか探し始めた。やはり、二人とも見たことがない映画がいいだろう、そう思った私は携帯電話を取り出し、私が選んだ映画を見たことがあるかを彼女に訊ねようとして、ふと我に返った。私には彼女はいなかった。アイリスオーヤマ、I have no 女.